工芸という産業の土壌を耕す。大きな想いへ繊細な工夫を重ね。
木を組む技術を活かした、京都匠塾のお箸や名刺入れ。
工芸という産業の土壌を耕す。大きな想いへ繊細な工夫を積み重ねています。
2017年現在、代表で木工家の高橋博樹さんと、木工家で将棋の駒をメインに作っておられる住谷孝蔵さんを中心に運営されています。
使い捨て時代をやめ、マイ箸を携帯したい人のために作られた、指物という技法で木を組み合わせて作られた箸です。
木目とつやが美しいお椀。89年生まれという若手でありながら、住谷さんの高い技術が光ります。
スッと開け閉めが気持ち良い名刺入れ。
自分用にも、プレゼントにも、人気の商品です。
お二人の工房「息吹」を訪問させていただきました!
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高橋博樹さんへの取材より
職人をめざす新しい芽を育て、伝統工芸の技術が育つ土壌を作る。そんな大きな課題に、着実に取り組む高橋さん。建築や都市計画の世界で培ったものを、工芸の世界で、新たな仕組みづくりに活かしていらっしゃいます。多様に見える活動の中に、繊細な工夫の積み重ねがありました。
子どもの頃から、工作大好き少年だった高橋さん。お父様と一緒に日曜大工をするのが好きでした。大きいものを作りたい、という思いから、建築学科を専攻。卒業後は、都市計画の事務所に勤めます。一人でサラリーマン生活をする中でも、自分の使う家具は自分で作っていました。
そんな中、雷に打たれるような衝撃が走る出来事がありました。たまたま見たWEB上の記事、家具職人のサイトでした。これがやりたい!!!と、思い切って会社をやめ、京都伝統工芸大学校に入り直します。木工の基礎を一から勉強するとともに、職人を志す仲間とも出会います。しかし、卒業を迎え、学校で学んだ技術を持っていても、ものづくりの道を断念せざるを得ない人の多さに、愕然とします。
作品を作ることと同じくらい、工芸という産業そのものを活性化させることが、重要なのではないか。そう気づいた高橋さんは、卒業生の仲間80名ほどを集め「京都匠塾」を立ち上げました。ギャラリー、百貨店、クラフト市などで、仲間の作品をまとめてブース出展しはじめます。作品の販路開拓や発表の場を作るとともに、伝統工芸産業の裾野を広げるべく、小学生など子どもたちを対象に、素材が立ち上がって形になっていくさまを伝える、ものづくりの教室をはじめたり、工芸作品をレンタルする仕組みを作ったり。工芸家でありながら、さまざまなアイディアを生かして、土壌づくりに力をいれていきます。
作り手としては、なかなか作る時間を設けられずにもどかしい思いをしているという高橋さん。しかし、自分が社会に対してできることをするのが優先、と、木工のものづくり活動を本格的にするのは、自分の子どもが大きくなってからかな、と話します。専ら仕組み作りや営業に力を入れ、作品を作るのは、作り手の仲間。このバランスで、しばらくやっていければ、ということです。
工芸品としての成功は、使う人が大切にしたいと思えるものかどうかだ、と話す高橋さん。飾る工芸に対しての憧れはあるけれど、使ってもらいたい、という思いの方が強いそうです。素材があることの制限をわかったうえで意識を働かせること、この制約ありきのものづくりは、建築にも通じること。今までの経験を活かして、工芸の土壌を、耕し続けています。
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住谷孝蔵さんへの取材より
南丹市工芸家協会で最年少ながら、仕事の精度は決して引けを取らない住谷さん。家具、クラフトなど、様々な種類のものづくりをして、自分の武器を増やしている最中だといいます。中でも、将棋の駒づくりを大きなテーマとして活動されています。
子どもの頃から作ことが好きだった住谷さん。高校2年生になり進路を考えていた際、将棋の手彫りの駒と出会います。これを手で彫っている人がいる…どうやって作っているのか、気になっていてもたってもいられず、駒を作っている人にメールをして、材料はどこで買えるのかから調べていきました。自分でも作れるかもという期待から、最初はかまぼこ板から始めたそう。高校3年生の時にはもう4組の駒を作り上げてしまいます。
その熱意が好じて、京都伝統工芸大学校へ。きっちり基礎を学んでレベルアップした住谷さん、いつか一式自分の作った道具を使った名人戦の対局姿を見るのが夢だそう。専ら自分が指すよりも、作ったり見たりする方が好きだそうです。そんなにも魅了させる駒…どのように作られているか、きいてみました。駒に書いてある文字は、漆で書かれているのですが、なんと、書く前に、文字の形の溝を彫っているとのこと。薄紙に文字を書き、それを板に貼り付けて、上から彫っていきます。これをすることで、沢山対局してすり減っても、ずっと文字が消えないという仕組み。よく見ると、文字の部分がふっくらとしています。寸分の狂いもない仕事…駒を入れる箱も、スッと蓋がしまります。
研究することが好きで、完全に自由な状態でやるよりも、制限がある方がもえるタイプだそう。作りながら考えるよりも、図面できっちり一回完成させてから、作るのが好きということで、そのきっちりした仕事ぶりから、伝統工芸展にも何度も入選しているのもうなずけます。ゆっくりしっかり作ったものを、しっかり買ってくれる人に売っていきたい、と仰います。「伝統工芸展は、車でいうモーターショーみたいなもの。一般の人がかっこいい車を大切に乗るような感覚で、木工品も使っていってもらいたい。」という例えが、ストンと心のなかにおりてきました。大阪生まれではあるけれど、しっかり制作に打ち込める、南丹市の環境は、とても気に入っているんだとか。
伝統工芸の良さを広め、技術の伝承に取り組んでいる、NPO法人京都匠塾にも所属しており、オリジナル製品を作ったり、保育園や小学校の子どもたちにも、木工などの技を伝える活動をされています。名実ともにこれからの工芸の世界を支えていく人材になっていく住谷さん、同世代としても、これからが本当に楽しみです。