blog

  1. HOME
  2. ブログ
  3. 03-作家・商品一覧
  4. 作陶家 天外窯 堤眞一さんインタビュー

作陶家 天外窯 堤眞一さんインタビュー

作陶家 堤眞一さんの工房を訪ねました。

土の味わいが魅力的なうつわを作られる、堤眞一さん。わざどころPONでは、お茶碗やコーヒーカップ、酒器などを中心に置かせてもらっています。今回は南丹市美山町にある堤さんの工房を訪ねて、作品づくりのこだわりについてお話を伺ってきました。

時間をかけてする仕事

山に囲まれた静かな工房で、薪の窯を使い陶磁器制作をされている堤さん。お茶やお花の席で使われる、おもてなし用の器を中心に作品を生み出されています。
陶芸の道に進んだのは、友人から陶芸の学校に誘われたことがきっかけだそう。それまでは別のお仕事をされていましたが、卒業後現在に至るまで陶磁器制作に関わり続け、32年になります。初めは美山町で陶芸教室の先生をしていたそうで、2002年に自分の窯を構えて独立されました。

天外窯と名付けられたその窯では、薪の火で陶器を焼いています。電気窯を使うこともありますが「焼き物」というのだから電熱でやるより火で「焼いた」という感覚が欲しい、と話す堤さん。その自分が良いと思う感覚を大切にする裏には、惜しみない手間がかけられていました。

窯の周りにはたくさんの木材が。大量の薪を準備するのも仕事のひとつ

電気窯と比べ、時間も費用も段違いにかかる薪の窯。トータル24時間ほどで焼きあがる電気窯に対し、薪の窯は火がついてから温度が上がるまでに時間を要するため、完成まで4日ほどかかります。使用する薪は、買うと一回で30万円分ほどになるとか。さらに、自動で温度調整をしてくれる電気と違い、完成までつきっきりで火の番をしなくてはいけません。
それでも、時間がかかるのがこの仕事と割り切り、ひとつひとつの工程に手をかけることで、他にはない堤さんならではの作品を生み出しています。

時には山から粘土層の土を持ち帰り、ふるいにかけたり砕いたりして、土づくりからすることも。きれいにされた市販の土と違い、焼成したときに燃えて穴になってしまうような不純物を取り除くなど、とても細かく気の遠くなりそうな作業を手でするそう。
そのような多くの手間をかけて作られた器からは、できあがるまでの長い過程に込められた思いの深みを感じました。

味わいのある、それぞれが個性を持った器

堤さんの持つ窯は大きくないため、一度に作られる量には限りがあります。だからこそ、ひとつひとつの作品に向き合い、手作りだからできるこだわりを詰め込んでいます。
そのひとつが、同じものでも全く同じにはならない色や形。
土の種類やその時の条件の違いによって、土の状態は変化します。堤さんは成形するときの手の感覚を大切に、無理にぴったり揃えて作ろうとせず、自然と気持ちよくできた形をそのまま残しています。
デザインについても、土や釉薬を生かしたシンプルなもの多い堤さんの作品ですが、その中でも少しずつ釉薬のかかり方が違ったり、指を置いていた位置がわかるような仕上がりになっていたりと、様々な表情を見せています。模様を出すために、藁や貝殻といった自然のものを使うことも。
また、均一に熱が加えられる電気窯と違い、薪の窯は場所によって温度が変わるため、焼き加減にもむらが生まれます。それにより、同じ土を使った作品でも色や縮み具合が異なる作品が出来上がります。

貝殻と藁を置いて焼いたうつわ。成分が熱と反応し、置いた部分だけ色が変わります。

このようなむらのできる方法をあえてとっている堤さんからは、こちらの思うように作ろうとするのではなく、自然になるようにできたものを受け入れる姿勢が窺えました。同じように作ってもどれひとつとして全く同じにはならないというのは、この世に全く同じ人が存在しないのと同じくらい、自然に向き合って作るとあたりまえのことなのかもしれません。
色・形・サイズが揃った工業製品のように同じものを手に入れることはできませんが、それが堤さんの大切にしている「風情あるうつわ」を生み出しているのだと感じました

おもてなしの心がつまった技

もうひとつ堤さんが作品作りで大切にされているのが、手に添う使いやすさ。自然になる形を潰さないようにしながらも、実はそこには、使う人を考えた細かな「おもてなし」の技がたくさん詰まっています。
例えば、お抹茶を美しくおいしく点てやすいように、口径や深さを考えられた茶器。うっかり手を滑らせても倒れずに起き上がるおちょこ。右利きの人、左利きの人それぞれが持ちやすいよう角度をつけたコーヒーカップの持ち手。
そんな作品の数々には、研究を重ねたこだわりの設計と手業がなす技術が駆使されています。その繊細な技術は、見ても気付けないものが多いのですが、なにかわからないけど使いやすい、と驚く方は少なくありません。
一度に大量には作れないからこそ、それを手に取る人が一番使いやすいように、「その人」のためを想って作る。人をもてなす場に使われる茶器や花器を多く作られてきた堤さんならではの、おもてなしの心が作品にも表れています。

右利きの人が持ちやすいように、持ち手が右上がりにつけられたカップ

当店の特集でも取り上げたビアハイは、釉薬をかける部分を少なくした内側がポイント。釉薬がかかっていない分、表面がざらっとし、炭酸が細かく濃密な泡に変わります。泡が蓋となってうまみを持続させてくれるので、特にラガーや黒ビールのような、しっかりした味わいのビールが好みの方におすすめ。最近では個性的な味や香りのあるクラフトビールが様々なところから出ているので、味比べをするのもより一層楽しめそうです。
普段グラスに注がずに飲む方にも、ぜひ違いを体験してみてほしいです。きっといつもより上質なうまさを感じられるはず。飲む前には、濡らした状態で冷凍庫に入れて冷やすと、さらにおいしさアップできますよ。

細かな泡を作るビア杯

手をかけた手作りの価値

100円ショップでも手軽に食器が買える時代。「便利」「簡単」「手軽」が求められる世の中で、手作りの作品だから実現できる価値を追求する堤さん。その風情と手にフィットするなじみの良さは、実際に見て手に取るとわかる良さだと思います。
「趣味が時代を逆行している」と笑う堤さんですが、シンプルな中にある作品の豊かな表情や、使う「その人」にとって一番使いやすいように作られた設計は、工業製品にはない技術と感性から生まれるもの。つい「便利」に流されてしまいがちな私たちですが、暮
らしに中にひとつ、このような作り手を感じるものがあることで、いつもより時を豊かな気持ちで過ごせるような気がします。
たくさんの細かなこだわりを、あえて言葉で説明しようとせず、見た目の風情や手に取ったときのなじみの良さ、使い心地で気に入ってもらいたいという堤さん。だからこそ、実際に見て手に取って、「私のために」「大切なあの人のために」作られたと思える一品を見つけにいきたくなります。
うつわの種類も新たにバリエーションを増やされているので、これからどんなこだわりのうつわが出てくるのか、楽しみです。

取材時は、おちょこや薬味用の小皿、平皿などの新作が。こちらは指を置いていた部分が模様になっています

工房見学、体験

堤さんは、工房見学や出張体験などもされています。ご興味のある方はぜひ、わざどころPONまで、お問い合わせください。

関連記事