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漆芸・表装 人見祥永さんインタビュー

漆器物での立体的な表現へ

南丹市八木町で独自の表現技法を生かした漆器物を製作する人見祥永さん。高校を卒業後、表具店の修業を経て独立。表具工房を営みながら、工芸展に風呂先屏風を出品していました。

風呂先屏風での表現は平面上に限定されるため限界を感じるようになり、30代半ばに「表現の範囲を広げて立体的な作品にも挑戦したい」と考えて表具に加え、和紙を使用した漆器物の製作を開始。

最初は梅雨時の庭に咲く、紫陽花を見て漆器物『あじさいの箱』を製作。和紙を使った漆器物には20〜30枚の和紙を幾重にも重ねて漆で塗り上げます。見た目には漆の重厚感がありつつも、和紙独特の良い手触りや質感を持っていて、とても軽いです。この最初の作品はデザインの考案から半年間かけて完成しました。

次の作品は万華鏡に裂いた紙を入れ、それを眺めている時に得た、インスピレーションから幾何学模様の漆器箱を製作。朱色の幾何学模様の上に小さい斑点模様がよく映える作品です。

ひとつの作品が完成しても満足するのはほんの一瞬で、すぐに次の作品に意識を向けて活動する人見さん。「独自の表現を極めたい」という想いで活動するうち、独自の表現技法が生まれました。

皺(しぼ)と玉虫の羽

和紙を芯棒に巻きつけた状態で、芯棒と同じ面積の穴をあけた板に、和紙を巻きつけた芯棒を通すように押し付けて和紙を押しつぶす。その潰れた和紙を広げ再び芯棒にその和紙を巻き付けて、同じように押しつぶす。この工程を何百回と繰り返す。和紙には独特のシワが付き、それを漆で塗り上げると趣のあるシワが模様のようになります。

彼はこの模様のようなシワを「皺(しぼ)」と呼びます。この技法を用いて最初に製作した漆器箱は、黒と朱のコントラストのきいた菱形模様の外観でした。

同時期に採用したのが玉虫の羽を使う技法です。以前は光沢を出すために貝殻を使っていましたが、近年、東南アジアから玉虫の羽を入手できるようになると、彼はそれに着目しました。

法隆寺が所蔵する玉虫厨子では玉虫の羽を施されていることなどから発想を得て、皺(しぼ)と共に作品に取り入れます。すると玉虫の羽が放つ柔らかな光沢と皺(しぼ)がしっくりと馴染みました。

彼はこの二つの技法を使用して、茶道で使う食籠(じきろう)や棗(なつめ)など次々に作品を製作します。皺(しぼ)と玉虫の羽を使う技法を極める中で生まれた傑作品が『紙胎皺矢羽根文箱(したいしぼやばねもんばこ)』。

皺(しぼ)を施した和紙を薄い菱形に切り、何百枚も張り合わせて矢羽根模様を表現しています。この緻密な工程作業に一年の期間を費やした作品は、第67回日本工芸展で絶賛されてNHK会長賞を受賞しました。

デザインの源

「前に作った作品よりも更に良いものを作りたい。」と常に考えている人見さん。以前製作した作品とは違う斬新なデザインを日々模索しています。彼は「デザインのヒントは日常の中に転がっている」と考えて、デザインのヒントを求め、アンテナを張り巡らしています。例えば車のタイヤホイールからデザインの発想を得たこともあります。

また、八木町氷室の里にいるダチョウの卵の殻を利用して製作した漆器物『卵胎(らんたい)』があります。ダチョウの卵の殻に皺(しぼ)の和紙を張り付けて黒い漆で塗り上げ、玉虫の羽もあしらった『卵胎(らんたい)』は、卵独特のつるりとした丸みが特徴ある漆器物です。

最新作『月夜の海』は皺(しぼ)を施した和紙を菱形に切って張り合わせ、光をあてた時に「波の揺らぎ」が見えるよう表現しています。玉虫の羽からは月の光を連想させ、湾曲線からは船体のなめらかなカーブを連想させます。

生活の中から発想のヒントを得て、数々の素敵な作品を製作する人見さん。「普段お客様から感想を聞く機会が少ないので、今回の展示会は作品に対する感想を教えてもらえるよい機会です」と展示会で直接お客様と会話ができるのを楽しみにしています。趣のある皺(しぼ)と玉虫の羽が織りなす独自の表現。その技法が施された繊細美あふれる数々の作品にあなたも触れに来てみませんか?

人見祥永特集 日々の暮らしから生まれる、立体的漆器物

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